まちの憩いの場 皆川珈琲

近所の人がふらっと来て、

コーヒーやってみようかなって思ったりしてくれたら凄く嬉しいです。

皆川珈琲

words & photograph by Nariya Esaki

「ちいさな幸せ」

そう答えてくれたのは、祖師ヶ谷大蔵でちいさなコーヒー屋さん皆川珈琲を営む皆川さん。もちろんコーヒーのことだ。

「コーヒーを飲むとホッとするとか、どんなに忙しくても、お店に来て、朝、試飲のコーヒーを淹れると落ち着くんですよ。」

皆川珈琲ができたのは２０１３年の５月。京王線沿線で探してもなかなか見つからなかった場所が不動産屋さんのすすめで来てみた祖師谷大蔵ですぐに見つかった。

「この古いビルの感じと、こっから見えるあの緑が気持ちいいので、もうここでパーパーってイメージが湧いたんですぐ決めました」

通りに面した並木道は春には桜が満開で、それも決め手になったようだ。

「ここで豆焼いてたら気持ちいいなと思って、緑が見えて、桜も見えて、でもはたらく環境って凄く大事じゃないですか自分が気持ちよく仕事できそうだなと思って（笑）」

昔からカフェ巡りが大好きだった皆川さん、でもカフェではなくてコーヒー屋さんにしようと思ったのは実はごくごく最近のはなし。

「今はたくさん（焙煎の）教室ありますけど、昔は、焙煎をおじさんがひとりでやるみたいな店が結構あったのでわたしも習えないなと思ってたら、働かせてくれるっていうお店を見つけて、ああ、もうこれは豆屋をやるってそのときに思いました」

そこで３年修行したあとは京都で仲居などをやって資金稼ぎをして２年･･･そんな経験もあってか、コーヒーを買うわけでもなく、仕事の合間に立ち寄る人も少なくないようだ。コーヒーが出るわけでもないのに、皆川珈琲はまるでまちの憩いの場と化しているようにも見える。

そう思うと気になるのは、コーヒーが好きだったのに、もうカフェをやるつもりはないのだろうか？

「思わないです。もう豆屋だけがいいです（笑）なんか、全部、この子達（豆のこと）がこう…なんか･･･ものづくりをしてる感じで豆を焼いているので、全部自分で観たいし、コーヒーを入れるならやっぱりしっかりちゃんとしたもの出さなきゃと思うと、ひとりじゃ絶対回せないなと思って、この規模の大きさでちょうどいい。忙しいのも苦手なので、あんまりガツガツしちゃうとダメなものが出来ちゃう。生活に余裕はないですけど、こころに余裕は欲しいので」

まさに職人。カフェじゃなくてコーヒー屋さんを選んだのも職人になりたかったからだそうだ。

「わたし職人になりたかったんですよね、何か。だから喫茶店じゃなくて、豆屋で。豆屋で働きながら、だんだん自分のやりたいカタチが固まって来た感じですね。」

そんな職人気質な彼女のこだわりを聞いてみるとちょっと意外な答えが返って来た。

「飲んでおいしいとか？でもコーヒーは本当に好みなので自分にあったものを見つけれられればそれでいいと思うんです」

なるほど確かに、「好き」を仕事にしただけに、その答えははっきり、すっきりしている。そんな彼女の好みは豆の種類ではなく、深煎りが好みだとか。

「よくお客さんでいらっしゃるのが豆の種類を言ってる来る方が多くて、それだとそのお客さんが他の店で飲んだのが浅煎りだったかもしれないし、ていうのが凄く大きいんですよ。だから豆の種類よりも自分の好きなローストが分かると間違いない。そういうふうに好みが出来ているので、でもどうしても深煎りが苦いって言うイメージの方が多くて、苦いだけじゃなくて後味に甘味があるっていうのも分かってもらえると嬉しいですね。」

そんな彼女の願いは

「だから好みなので、そのちょっとだけの提案が出来ればいいなと思ってます。近所の人がふらっと来てコーヒーやってみようかなって思ったりしてくれたら凄く嬉しいです。」

そんな彼女の思いは、すでに一度だけ叶ったようだ。コーヒーに興味があって来たお客さんに、時間があるときに淹れ方まで教えたら、コーヒーデビューしてくれたとか。コーヒーに少しでも興味があったら、ちょっと立ち寄ってみるのもいいかもしれない。もし買わなくても、きっとちいさな幸せを見つけれられるはずだ。