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「たとえば、おじいちゃんになったとしても、

 

自分の好きな表現について語り合える人生って、

 

何かこう素敵だなと思えるんです。

 

一億総評論家時代と言われて久しい。

 

そんな時代に彼が選んだのは、

 

評論するのではなく、

 

自分で表現することだった。

 

それも写真でも美術でもなく、

 

それは芸術としか呼びようのない表現で。 

 

今やその語りは、パリをはじめ海外にまで足を伸ばしている。


30歳のときに思ったのは、自分が子どものときに、

どういう大人のヴィジョンを描いてたのかなと思ったんですよ。

 

Kiiro


words & photography by Nariya Esaki

「30歳のときに思ったのは、自分が子どものときに、どういう大人のヴィジョンを描いてたのかなと思ったんですよ、何がやりたかったのかなって、その人生をやれてないとしたら、そのまま生きて死んでいいのかなと思って。」

 

30歳は確かに成人を迎える20歳よりも、大人になるために子どもの自分を捨てる季節かもしれない。まだ多くが学生の20歳と違って、周りは仕事で部下を持ち始めたり、友人の結婚式に招待されたり、あるいは子どもが生まれたり、少なからずそんな経験をするのだから、流石にそろそろ自分も大人にならなきゃなと思うには充分な理由が揃っている。しかし彼はそれを選択しなかった。むしろ仕事詰めになっている自分を見つめなおしたのだ。

 

「そしたら自分は絵が好きだったし、何かこう、自分の出来る表現で、子どもたちの表現に関われるような、そういう人生を過ごしたいなって漠然と思って、で、今やってる仕事はそういうのとかけ離れてるから、ちょっとそれも1回やめて、自分の作品を発表しようと思ったんです。」

 

favoriで行われたトークイベントの様子。
favoriで行われたトークイベントの様子。

絵を描くことはそれこそ幼稚園の頃から好きだったし、高校生になってからは本格的に油絵を学び始める。それくらい絵が好きだったのに、なぜその頃は仕事詰めになっていたのだろうか。

 

「やっぱ習い始めとか、やり始めとか楽しいじゃないですか。だけどやっぱりだんだん追求していくと、楽しいだけじゃなくて、やっぱりつらいとか大変な部分もいっぱいあるじゃないですか。自分の油絵のやり方っていうのも、描いては削って描いては削ってっていう、削ることで油絵の深み出すやり方をやってて、だんだん自分が何を描きたいのか、何を表現したいのか分らなくなって来たんですよね。それこそ1個作品を完成させるのに半年とか1年くらい、とにかく時間もかかってしまうし、作るたびに体調も悪くなっていくというか、負の循環っていうか、自分が何をやりたいのかだんだん分んなくなって来た時期が20代中盤のときとかにあって、それで映像作品だったり立体だったり彫刻だったり、自分の興味が沸くままにいろいろと制作してたんですけど、これは自分の作品だなっていうのがなかなか出来なくて。どんどん病気して、入院とかして、あ、このままじゃちょっとやばいなっていう気がして来たんですよ。描いてるとそういう記憶が蘇って来て、もう描かないで置いたんですね。」

 

余計に30歳になれば、多くの人と同じように普通の人生を選択してもおかしくなさそうなのに、なぜか彼はむしろもう一度、絵を描くことを選んだのだ。

「コスモスと出逢ったことで、自分を変えてくれたんですよね」

 

それまで花なんて興味がなかったのに――実は作品からは想像も付かないけれど彼はクラッシュからブルーハーツまで男臭いパンクミュージックが好きなのだ――ましてコスモスなんてメルヘンチックで、かわいらしくて、華やかな感じで好きじゃなかったのに、そのコスモス畑はまるで別物に写ったのだ。

 

「でもそういうイメージを持ってただけなんですよね。実際、30のときにコスモス畑にたまたま行ったときに、何か全然違うなって思ったんですよ。全然そんな印象はなくて、むしろ、もの凄い咲いてるんですね。風とか強風になぎ倒されてるのに、そこからまだ這い上がって来る力強さがあるんですよ。根を生やして、光に向かって、立ち向かってて、花咲かせていく。で、茎も実はもの凄い太いんですよね。花は可憐で繊細なんですけど、茎とか根は凄い太いし、生命力がある。そこに感動して、そのときの自分の心情だったりが加わって、何かこう、自分自身の子どもの頃の記憶っていうか、そういったものがコスモスから呼び起こされて、自分もまだ諦めずにやれるんじゃないかと思って、作品を発表しようっていう気持ちにさせてくれたんです」

(つつぎます)


前編

「30歳のときに思ったのは、自分が子どものときに、

どういう大人のヴィジョンを描いてたのかなと思ったんですよ。」

2016-01-26-WED

2016-02-10-WED



箱店×小仕事カフェ

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ホームページ

http://hakocafe-favori.jimdo.com/

 

場所

東京都世田谷区南烏山6-6-15


Kiiro

写真作家

1978 年。神奈川県出身。

 

多様な性質をもつコスモスの叙情的世界をフォトコラージュを駆使し制作。日本を拠点に、フランス、ベルギー、韓国、ニューヨークで展示。2015年には、フランスで開催の写真コンテスト「Wipplay」にて、審査員を勤める。

HP : http://www.iwahada.com