飛び立ちたい大人たちのためのファンタジー映画。
『バードピープル』
words by Nariya Esaki
フリー アーザ バード、と歌ったのはビートルズだったが、誰もがそんなことを思ったことがあるんじゃないだろうか?
冒頭、カメラとマイクは、電車に乗っている人々の頭の中や、ときにはヘッドフォンの音まで拾う。なんでもないはずのその日常の風景は、気づけば、あまりの情報量の多さにうんざりさせられる。しかも週に10時間、月に40時間、そんな場所に費やしていると思うと、多くの人は、自分の人生に照らし合わせて、思わずうんざりしてしまうだろう。もしそれが飛行機だったら、きっと、もっとうんざりするに違いない。
そう、これはそんな男――飛行機に乗って分刻みで動く――ゲイリーの話だ。
でも彼はお金がないわけじゃない。少なくともヒルトンホテルに泊まれるくらいには――それが会社のお金だとしても――裕福だし、会社の権限だって持っている株主だ。簡単に言ってしまえば、それなりに成功しているベンチャー企業の重役だ。それに妻も子どももいる。何かあったようだけど、それについてはあまり深く語られない――多くの映画はそちらに焦点を置きそうだが――おそらくそれは大した原因ではないのだろう。
うんざりした、だから全部やめる。
彼は確かにそう言う。
でも本当にそうだろうか?
妻との長いスカイプを終えて、充分にうんざりさせられたところで、ホテルのルームメイドのオドレーの話に切り替わる。そこは、もちろんゲイリーも泊まっているヒルトンホテル。でも彼女は大学を休学していることを、親に内緒にしている、ごくごく普通の女の子だ。
そんな彼女ももちろん、月40時間の通勤時間や、ヒルトンホテルだからって、決してきれいな部屋ばかりじゃないことに、うんざりしている。でも親に内緒にしてまで休学して通う、その場所に、本当に彼女はうんざりしているのだろうか?
鳥のように自由になりたい。
そう思うとき、あなたは本当にそこから飛び出したいと思っているだろうか?
いつもと違う場所から眺めて見れば、ひょっとすると違う答えがそこには待っているのかもしれない。
これはそんな映画。
2015年9月26日(土)より
ユーロスペース、新宿シネマカリテ(レイトショー)ほか全国順次公開
監督:パスカル・フェラン 『レディ・チャタレー』
出演:アナイス・ドゥムースティエ 『彼は秘密の女ともだち』/ジョシュ・チャールズ『いまを生きる』
2014年/フランス/フランス語・英語/カラー/128分/DCP/1:1.85/5.1ch
原題:Bird People/字幕翻訳:高部義之/配給:エタンチェ/宣伝:沼尾真未、cloud heaven
©Archipel 35 – France 2 Cinéma – Titre et Structure Production