「ぼくも撮ってもらっていいですか?」
久し振りに、カメラを回していたら、うしろから声をかけられた。
「いいですよ」
とふたつ返事で撮ることになったけれど、
まさかそのふたつ返事が、
そのままこのPVにまで発展するとはそのときは思っていなかった。
「こんなにインタビューで混乱してるのは始めてですね。」
それはただの記者とミュージシャン、
という関係性ではないからこそ出て来た言葉だった。
写真までPVを撮ったカメラマンにお願いしたのだから。
ビールまで用意されれば、
飲みの延長みたいなものだ。
いや、だからこそ、ここでしか聞けない、
音楽と生きること、
そしてそれはミュージシャンの枠に収まらない、
これからの生き方のヒントにもなったかもしれない。
ミュージシャンなんて博打のような商売とは言うものの、
ぼくはかなり安定した道を歩んでるのかも
原田 茶飯事
words by Nariya Esaki
photography by Souichiro Yamashita
「1回1回のライブがそんなふうに大きいフェスに繫がるかもっていう気持ちでやってて良かったなっていうか、毎回これが最後のライブくらいの気持ちでやるっていうのも大事なんかなと」
長野のりんご音楽祭も、愛知のトヨタロックフェスティバルも、偶然、そのライブハウスに居合わせた主催者から声をかけられて始まった。それを人は運と呼ぶのかもしれないけど、そこには当然、いい音楽があって、日々の姿勢があったからこそ出来た繫がりと言うべきだろう。
そしてそれはライブを全力でやるだけではなく、かつては若気の至りで出来なかった、年齢とともに積み重ねた腰の低さはもちろん、何より音楽との付き合い方にもあるのかもしれない。
「何かこうリスナーをばかにしてるような音楽活動はしないようにしていきたいですね。『本当にいいもの』って自分が思えるものしか売りたくない、作り手の意地というか・・・。確実に売れるからって言ってバカ高い値段で凄いしょうもないものを売って得たお金にそんなに意味を見出せない気がして、商売としては絶対そっちの方が成功してるし、やっぱお金があると人も雇えるし、必要なことやとは思うんですけど、そういう非効率的なやり方の方が向いてるというか、音楽とのかかわりとして、豊かに生きていけるような・・・うん、音楽を嫌いにならんように生きてるって感じですかね。」
「好きなことを仕事にするってことが嫌にならない努力をしてるというか、ぼく飽き性なんで、特にその飽きないようにする努力っていうのも必要やし、それはいろんな音楽を聴くようにしたり、探したりとか、意識して貪欲になるように仕向けないと、自分が聴く側として、昔よりも飽きてるのは確実で。昔の杵柄だけでやってると、新鮮さもなくなっていくやろうし、自分自身に飽きそうやし、そうなったら恐いなと思って。」
商いは飽きないように、なんて冗談のように言うけれど、しかしそれが好きなことだったら尚更そうかもしれない。
「でもこういうインタビューで、やりたいから音楽やってます、みたいにバシって言えるくらいに音楽に没頭して出来てたら最高なんですけどね。何十年後も。別に戦略とかも考えてない。ただ好きでやってるみたいな感じで言えたらいいですよね。」
確かに、今やミュージシャン自らが、ブログやフェイスブック、ツイッターで発信するのが最早、当たり前の時代だ。でも彼の年間100本以上のツアーを見ていると、結局は人と人の繫がりでしかないんじゃないだろうか。
「原田茶飯事だから呼んだとか、原田茶飯事だから最高な夜が出来たみたいな風に評してくれる人の場所には、年に1回は行きたいなって思うし、それがどんどんツアーをするごとに増えていってますね。一生の付き合いになるかもしれませんが、よろしくお願いしますって感じの場所が増えて。そういう意味では潰しの利く立ち居地なんじゃないかなと思います。ミュージシャンなんて博打のような商売とは言うものの、ぼくはかなりローリスクで安定した道を歩んでるのかも。」
そんな彼に、まちのことを訊いてみると、こんな答えが返って来た。
「ツアーに出たりするといろいろその土地、その土地で、おいしいものもありますけど、結局メシっていうのは、誰と食べるかで旨さは変わるし...だからやっぱ人ですかね。いろいろ考えた結果。ツアーに行って、『帰って来たよー』って思えるくらいの場所がいくつかあるっていうのが、普通に生活してる人ではあんまりない感覚かもしれないですね。実家がいっぱいあるみたいな。『歓迎してくれる人がいるまち』がいっぱいあるっていうのが、音楽やってよかったところのひとつですかね。・・・もしかしたら一番良かった部分かもしれないですね。」
(おわり)
もくじ
2015-10-17
2015-10-31
後編 ミュージシャンなんて博打のような商売とは言うものの
2015-11-14
原田茶飯事
5月2日大阪うまれ、東京在住のA型。芸名に水が絡むと運気があがるとのことで2007年頃から原田茶飯事と名乗っている。
ソフトロックやMPBの洒落っ気、茶目っ気を感じさせながらも口から半分 魂の出たようなステージングは必見。ソロとバンドを使い分け節操無く全国を渡り歩く全方位型シンガーソングライター。
《公式website》